2010.06.19 Saturday
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2006.04.30 Sunday
尸変
陽信県に某という老人がいた。その人は蔡店村の人である。
村は城から五、六里ほど離れた場所にあり老人はその街道沿いに息子と一緒に宿を営んでいた。 店に数名車夫がいたため、往来する商人がよく泊まった。 ある日の夕暮れに、四人の旅客が止めてくれと宿を訪ねたのだが、あいにく全ての部屋が埋まっていた。 一度は断ったのだが、旅客たちは他に当てがないのでぜひにと頼んだ。 老人はあるところを一つ思い出したのだが、その部屋に客を泊めるわけにはいかないだろうと考えあぐねいた。 旅客たちは 「雨風が凌げればどんな部屋でも文句はありません。」 と言うので、とうとう老人は四人を部屋へと案内した。 丁度老人の倅の嫁が死んだばかりで屍を部屋に寝かせ、倅は棺を買いに出かけていたのである。 部屋には薄暗い燈が置いてあり、帳の中には霊台の上に紙のよぎを着せた女の屍が横たえられている。 中を覗くと四つの寝具がその次の間に用意されたあった。 四人はとても疲れていたため不気味などと考える間も無く、次第に息を粗くしながら深い眠りに落ちていったのだが一人だけはうとうとしていた。 するとがさがさという音が隣の部屋から聞こえてきた。 驚いて目を開けると、灯りに照らされてはっきりとよぎを掲げて起きている女の屍が見えるではないか。 女は霊台から降りてくると、こちらの部屋へと入ってくる。 女は薄金色の顔に、額には絹の鉢巻を巻いていた。 女はうつむきながらこちらの寝台に近づいてくると、ふっ、と三人へと順々に息を吹いた。起きていた旅客は次は自分の番なのではないかと考えると酷く怯えて、布団を頭まですっぽりと被ると息を殺してじっとしていた。 すると三人と同じように旅客の上でもふっと息を吹きかける音がした。 しばらくすると部屋を去っていく足音の後に、さらさらと紙のよぎが擦れる音がする。 僅かに首を上げて覗いてみると、初めのように女は霊台の上で横たわっていた。 旅客はそっと一人を足で蹴ってみたがちっとも動かないのである。 色々と試してみるのだが全く効果がない。 旅客はいっそ逃げ出してしまおうと着物を着かけたのだが、またさらさらとよぎが擦れる音がしたのであわてて布団に潜った。 布団の中でじっと様子を伺っているとまた女がこちらに来ると、ふっと一人ずつに息を吹きかけた。度々繰り返すとようやく去っていきよぎが擦れる音で女が寝た事を知ると旅客は布団の中からそろそろと手を伸ばし、ズボンをつかむと急いでそれを身につけはだしのまま駆け出した。
女も後を追いかけようと立ち上がったのだが、女が帳を離れた頃には旅客はかんぬきをはずして外に飛び出していた。
女も走ってついて来たが、旅客も必死である。大声で怒鳴り声を上げたが村の人は全く起きてくる気配がない。 宿の主人の元へと駆け込もうかと思ったが、ぐずぐずしていると女に追いつかれてしまう。邑城に通じる道に出ると力の限りに走り続けた。 城下の東にある郊外まで来て、ふと見ると寺があり木魚を叩く音が聞こえた来たので、旅客は山門をくぐると必死に戸を叩いた。 しかしその只ならぬ様子に寺の者も訝しがって戸を開けてはくれなかった。 女が髪を振り乱してもう一尺というところまで迫ってきた。 旅客は酷く困りなにかないかと探していると、門外に胴が四、五尺もある白楊の木があったのでその陰に逃げ込んだ。 女が右に回れば、旅客は左に回った。女はひどく怒り、しばらくぐるぐると回っていたがどちらも疲れ果て、追いかける力も逃げる力も無くなってきた。女が急に立ち止まったので、旅客は息も切れ切れ、汗まみれで木の陰に隠れた。女はさっと両手を伸ばして来たのだが、旅客はその前に驚いてずるずると倒れこんでしまったので結局からだを掴むことは出来なかった。 女は木を抱いたまま、ぴくりとも動かなくなった。 この間、寺の者はずっと聞き耳を立てていたのだがしばらくすると物音が全くしなくなったため、そろそろと門を開いた。 すると男が一人、地面に倒れていた。近づいてみると、既に息絶えていたがまだ心臓が弱弱しく動いていた。慌てて寺の中に運び込み、介抱するとしばらくして息を吹き返した。 白湯を飲ませながら訊ねると、旅客は今夜自分が体験した事を全て話した。 そのときようやく夜明けの鐘が聞こえたので、寺の者は門を出て白楊のあたりに近づくと、確かに女の屍が蝉のように貼り付いていた。驚いてすぐに役人へと知らせに行った。 知事自ら出てきて、旅客と寺の者にそれぞれ質問すると、人に命じて女を木からはがそうとしたのだが固く貼り付いてなかなか上手くいかなかった。 よく見ると左右四本の指が鉤のように曲がって、爪が隠れるほど木に埋まっていた。更に人を増やして力の限り引くとようやく外れた。木にはのみで掘ったように穴が開いていた。 知事が宿へ役人をやると、死体は消えているし、客が死んでいるので宿はざわついていたので、役人は老人にわけを詳しく話したのである。 老人は東門外に来ると、女の死体を背負って帰っていった。 旅客は知事に 「私は四人連れで旅に出たのに、一人になって帰るのです。こんな事情があったとしても、どうやって故郷のものに説明したらいいのでしょう。」 と泣きながら訴えるので、知事は旅客に書付けを与えるとそれを持たせて帰らせたのである。 よくじいちゃんは嫁さんの死体を背負って帰ったよなという感じです。 コメント
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